全米から注目が集まるコーポレートアントレプレナーシップアワード2015 〜ゼロックスと恊働する遠隔医療の風雲児から孤児を支えるメンターシッププログラムまで〜

全米から注目が集まるコーポレートアントレプレナーシップアワード2015 〜ゼロックスと恊働する遠隔医療の風雲児から孤児を支えるメンターシッププログラムまで〜

ニューヨークのワールド・トレードセンターで行われたCorporate Entrepreneur Awards 2015。6年目になる今年は、100近い企業内イノベーションやイントラプレナ–シップの取り組みがノミネートされ、ファイナリスト達の中から選ばれた6つのチームが表彰されました。

表彰部門はNew Product、New Service、New venture、 Social impact、Innovation Program、People’s Choice(参加者による投票)の6つ。

プロダクトやサービスだけでなく、ベンチャーやソーシャルインパクト、イノベーションプログラムなどのカテゴリが用意されているところがユニークです。

全米から200名ほどのビジネスリーダー達が集まっていました。

アラスカ航空の指紋認証やゼロックスのHealth Spot(キオスクと連携した遠隔ネットワーク医療サービス。これ、あとで書きますがすごいです)、世界最大の教育系企業ピアソンのOne Pearson Global Product LifecycleというLean Startupをベースとした人財育成プラグラム、NBC NewsのNewsConnectプラットフォーム、はたまたサッカーチームを通じたローカルコミュニティ( The City Football Group)など、幅広い分野・業界での取り組みから表彰されました。

ノミネート全体の傾向としては、金融(Fintech)系とセンサーなど認証技術を活かしたものが多かった印象です。

各カテゴリでの表彰チームはこちらで紹介されています。

22391353145_4604a1c756_k会場にはノミネートされたプロジェクトが掲載され、設置されたタブレット端末からPeople’s Choice Awardの投票が行われました。

ソーシャルインパクトアワードは、孤児達のメンター支援を行うEsquire Magazineのメンターリング・イニシアチブ

気になるソーシャルインパクトアワードを受賞したのは、米国の老舗男性誌Esquire MagazineのEsquire Mentoring Initiativeという少年・青年向けメンターシップの取り組みでした。

両親のいない孤児や低所得層の子ども達のドロップアウトや非行が増えている中、父親がいない少年達をメンターとマッチングさせ、父親かわりとして共に生きていく道をつくっていくという取り組みです。(男性にフォーカスをしているのは、男性誌であるEsquireのリソースを最大限活かせると考えたためだそうです)

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Esquire Mentoring InitiativeのHP

スポーツ界やビジネス界で活躍する著名人のメンターストーリーをインタビュー記事として発信しながら、メンターの重要性を強く訴えることで、活動を広げ、これまで100万人以上の男性がEsquire Mentoring Initiativeを通して、孤児達のメンターとして活動しています。(もちろん米国中のカウンセリング・メンタリング専門組織の指導・研修のもとでメンタリングを行っているそうです)

孤児院や少年院でメンターを望む子ども達は多くいる一方で、メンターをしてくれる男性がなかなか見つからないというチャレンジを、自らの持つリソース(雑誌としての著名人との関係性)を上手く活用して乗り越え、社会課題の解決に取り組んでいることが評価されたようです。

 

ちなみにSocial Impact部門にノミネートされていたのは以下の10プロジェクト

  • The Longevity Network (United Healthcare)
  • Behavioral Finance Tool (Barcrays) 
  • Path to Prime (Barcrays)
  • Social Network Rewarding Creativity in Developing Countries  (BITLANDERS) 
  • Direct Energy:Reduce Your Use (Direct Energy)
  • Esquire Mentoring Initiative (Esquire Magazine)
  • Converting loyalty currency into Higher Education Funds (Higher ED Points Inc.)
  • Health Pathfinder (Mercer in Collabloration with Jiff)
  • Our water story: Thinking beyond conservation (Startwood Hotels&Resorts)
  • TeenDrive365:distracted Driving Experience (TOYOTA)
  • Clave al Exito (Univision) 

ヒスパニック系の子どもの教育支援のための、親向けオンラインプラットフォーム Clave al Exito、10代の交通事故削減ためにオキュラスリフトを活用したTOYOTAの取り組み、あとは、特にムスリムの女性が匿名で利用しているというbitcharitiesというCause Platform(コーズマーケティングのコーズですね)など既存のコア事業と社会課題を上手くブリッジしたユニークな取り組みが多くて面白かったです。

今回のイントラプレナーシップカンファレンスにもきていた、BarclaysのSocial innovation Facilityからも2プロジェクトがノミネートされていましたが、Behavial FinanceTool(行動ファイナンスツール)がインパクト投資の文脈で語られていて違和感満載でした….。

 

ソーシャルインパクトの評価はやや曖昧?

ソーシャルインパクト部門の評価観点としては、

・社会や環境に明確なベネフィットをもたらす商品やサービスであること

・市場に大きなインパクトがあること

・ソーシャルインパクトを生み出すためのチャレンジを企業内アントレプレナーシップを持って乗り越えていること

の3つが上げられていましたが、具体的にはどのようにインパクト評価が行われていたのかは不明です。例えば、表彰されたEsquireのMentoring Initiativeについても、これまで100万人以上がメンターとして活動していることは発表されていましたが、それがどのような社会的なアウトカムにつながったのかについては言及されていませんでした。(それでも100万人ってすごいですが…)

 

遠隔医療の風雲児 Health Spotの挑戦 

個人的には、Best New Ventureで表彰されていたHealth Spotはソーシャルインパクトという観点からも非常に可能性があるのではないかと思いました。

Health Spotは遠隔治療が受けられる可動式ブースのようなもので、高性能カメラやビデオモニター、聴診器、血圧計などの医療機器が設置されており、患者はビデオモニターを通して医師と話しながら診断データを送付し、まるで病院にいるかのように診断を受けることができます。

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遠隔医療自体は既に様々な場面で活用されているし、技術的にはものすごく新しいというわけではないのですが、患者と医者の相互の操作性や情報セキュリティ、ブースでのセルフ診断という新たな体験設計、バリューチェーン、コスト、医療法規制など障壁も多い中、日常医療レベルへの展開を実現しているのは非常にインパクトがあるなと思いました。

例えば、物理的な診断を受けていない患者への処方は州の医療法で違法とされていましたが、HealthSpotの必要性を直談判して法規制の(解釈)変更を実現したり、Clevelandというデザインファームとコラボレーションして顧客側と医師側双方の体験を設計するなどして障壁を乗り越えてきたそうです。

そうして1年以上のトライアル期間を経て、ようやく今年からRiteAidという全米で5000店舗を持つ薬局チェーンへの設置も本格的に始まりました。

“Our goal is to put these kiosks all across the United States.We want them to be as prominent as ATM’s(我々のゴールはこの医療キオスクを全米に設置することだ。ATMのように当たり前に目に留まる存在になってほしい)” – Steve Cashman, Founder and CEO at Health Spot

“Frankly telemedicine and telehealth has been evolving in the last several years. A number of companies throughout the United States are trying to develop online solutions, but HealthSpot, we thought was at a level above others(テレメディスンの分野はここ数年で急激に発展していて、全米の多くの会社がオンラインソリューションを開発しようとしているが、HealthSpotはその上をいっていると感じた)” – Robert Thompson, executive vice president at RiteAid

XeroxはオハイオのスタートアップHealth Spotへの投資・恊働と、PokitDokという医療に特化したクラウドプラットフォームとパートナーシップを組みながら、現在はオハイオ州の25カ所のRiteAidに設置、今年中に75カ所に展開予定だそうです。

まだまだチャレンジは多くありそうですが、これがリーズナブルなコストで提供可能になれば先進国だけでなく途上国でのニーズは絶大だろうし、適切な日常医療が病院に行かずしてもコミュニティセンターやショッピングモールで遠隔で受けられるインパクトはものすごいなと。Telehealth/Telemedicineの分野の動きにも大きな変化が生まれそうです。

Health SpotのHP

Health SpotのHP

 

大企業のイントラプレナー的な動きが評価され、スポットライトをあてていくことの重要性

今回のコーポレートアントレプレナーシップアワードやイントラプレナーシップカンファレンスで改めて感じたのは、こうしたイントラプレナー的な活動・チーム・成果にスポットライトをあて、認知・評価を高める仕組みをつくることが、彼らを支え、動きを加速させていくエコシステムの重要な一端を担っているということ。

尊敬するWiL三浦さんの越境リーダーシップ・パターンの一つに「外堀から埋める(外部の評価を高めることで、社内の評価を得る)」というストラテジーがありますが、今回のアワードの結果はほとんどの受賞企業のHPでも取り上げられています。

日本でも、例えば、日本財団の未来を変えるデザイン展のように、成果となる前の未来をつくっていくプロジェクトの「種」にスポットライトを当てていく取り組みなどもありましたが、イントラプレナーシップの動きを加速させていくために、(中でのエグゼキューション支援だけでなく)そういう外堀を埋めていくために外部プレイヤーが果たせる役割は大きいですね。

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大企業からいかに社会インパクトを生み出していくか 〜なぜアショーカはピボットしたのか〜

今回のイントラプレナーシップカンファレンスでもソーシャルイントラプレナ–シップも一部テーマとしてとりあげられており、大企業からいかに社会インパクトを生み出していくかという観点でイントラプレナ–シップに関する議論が行われました。

カンファレンスの2日目のkeynoteでもアショーカのChangeMakers Leaning LabBarclaysのSocial Innovation FacilityCambia Health Foundationからスピーチがありました。あと有名なところでは、サステイナビリティ系のシンクタンクSustainAbilityなども参加していました。

こうした大企業のイノベーション文脈に社会的要素をどのように組み込んでいくかということは個人的にも興味があるのところですが、そこはさすがアショーカ!という感じでした。

“What if there are the dark sides of innovation?”とダースベーダーの写真と共に切り出し、地雷の発明がもたらした悲惨な現状や物流イノベーションにおける児童労働、ロボティクスにおける失業などを事例にイノベーションにも負の側面がある可能性に言及していったAshokaのReemのスピーチは、初日のイノベーション熱が広がる会場に一気にソーシャルインパクトの観点を突きつける素晴らしいものでした。

イノベーションにおけるダークサイドについて話すAshokaのReem

イノベーションにおけるダークサイドについて話すAshokaのReem

“Everywhere A ChangeMaker”という新たなビジョンを掲げ、ピボットを果たしたアショーカの思想が強くにじみ出たKeynoteでした。

個人的には、Lean Innovation界隈のわりとギラギラした人達と組織のサステイナビリティやソーシャルイントラプレナ–シップ界隈のパッション系の人達が「大企業からの新たな価値創造」をテーマに、同じテーブルを囲んでいる感じが面白く、そこに今回のようなカンファレンスを行う意義を強く感じました。

こうした大企業からの新たな価値創造の文脈に、社会価値的要素をしたたかに仕込んでいくための仕掛けをつくっていくことに興味がある方がいたら、ぜひご連絡下さい。

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▼イントラプレナーシップカンファレンス・レポート
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【Vol.1】イントラプレナーシップの最先端 〜大企業でイノベーションを加速させるための戦略的アプローチとは〜
【Vo.2】シスコのCHILLにみる顧客との共創プラットフォームの重要性 〜組織の境界を越えて多様な人財を呼び込むエコシステムづくり〜
【Vol.3】イントラプレナーシップにおける自己探求の営みと組織が向き合うべきパーソナル・サステイナビリティという考え方
【Vol.4】全米から注目が集まるコーポレートアントレプレナーシップアワード2015 〜ゼロックスと恊働する遠隔医療の風雲児から孤児を支えるメンターシッププログラムまで〜
【Vol.5】IMPACT BAZAARが創りだそうとしているソーシャル・イノベーション・エコシステムの先進性とは?
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ランチタイムのアンカンファレンスの様子

ランチタイムのソーシャルイントラプレナーシップに関するアンカンファレンスの様子