Impact Bazaarが創りだそうとしているソーシャル・イノベーション・エコシステムの先進性とは?

Impact Bazaarが創りだそうとしているソーシャル・イノベーション・エコシステムの先進性とは?

気になっていた、Impact HUB NYCのImpact Bazaar(インパクト・バザール)へ。その構想は非常にエキサイティングで温かく、ソーシャルイノベーションのエコシステムを考える上でも示唆に富むものでした。

Impact Bazaarは、アントレプレナー達がアイデアを事業としてテイクオフさせ、スケールさせるために必要なリソースとツールを、物理的に一つのスペースに集約し、イノベーションのリアルなマーケットプレイスを創り出すというもの。Bazaarの期間は丸々1フロアが解放され、ClassやWorkshop, Mentoring hour, idea&resource exchangeが、(まずは)数ヶ月間毎日そこら中でPop-upし、展開されます。

Impact HUB NYC DirectorのSamと色々と話をしながら、サイトに「Introducing a new model for innovation」と書いてあるのはそういうことかーと思いました。ローンチしたばかりなので、果たして本当にworkするのかはこれから実験を重ねていくのだろと思いますが、イノベーティブなエコシステム形成を考える上でこのモデルはだいぶヒントになる気がします(バザールという名前も)。

Impact HUB NYC HPより

Impact HUB NYC HPより

「起業家と支援者」ではなくて、集まった個人がそれぞれ生み出したいインパクトに必要なリソースと結びつく

思想自体はHUBの思想そのものなのですが、画期的なのはその事業モデルと、より生命的なエコシステムの捉え方。

様々なリソースをBazaarという一つのパッケージにすることでスポンサーがお金をつけやすくなるし、Bazaarの名前のとおりNon-HUB Memberも含めあらゆるアントレプレナーに解放されているので、起業家がお金を払って参加するインキュベーション/アクセレレータープログラムとは、グラウンドデザインの仕方が根本的に異なります。(そして、なんていうか、HUBだからこそできるモデルでもあるなぁと。普通にやろうとしたらコミュニティのリソースも組織自身の体力も持たないので他ではなかなか難しいはず)

これまでのインキュベーション/アクセレレーションのモデルでは、起業家なのかそれとも起業家を支援するプレイヤー(例えば投資家)かで関わり方がデザインされるのが普通です。例えば、プログラムにお金を払って参加をした起業家達が、プログラムを経て大勢の投資家の前でピッチをする機会を得、そこで次ステージへのマッチングが行われます。

しかし、Impact Bazaarでは、そうした(大勢の)起業家達とそれを取り囲む(大勢の)プレイヤー達という関係性という概念はありません。集まった個人(起業家も投資家も行政も含むあらゆるプレイヤー)がそれぞれの生み出したいインパクトを生むために必要なリソースと結びついていくという思想のもとに設計されています。

ここに、Impact Bazaarが創りだそうとしているエコシステムの先進性があるように思います。

複数の変化をまたがってリソースが循環していく仕組み?

1人の起業家を中心とした1つの変化を生み出すためのリソースの集合体を1つのマイクロシステムとして捉えると、例えばその集合体を担う一部のプレイヤー(例えば投資家や行政)は、他の変化(起業家)とも結びつくことにより自分の生み出すインパクトを最大化しようとします。

それはつまり、一つの変化を取り囲むマイクロシステム同士がつながって、変化と変化が有機的に結びついていくということを意味します。そして、複数の変化にまたがるプレイヤー(投資家や支援側のプレイヤー)を通じ、一つの変化を越えて別の変化へとリソースが循環していくチャネルが形成されているということです。

その先にあるのは、例えば、

あるソーシャルエンタープライズへの投資のリターンが、そのソーシャルエンタープライズの事業インパクトを通じて、別のソーシャルエンタープライズの利益から返ってくる、とか

地方の行政組織を通じて、複数のソーシャルエンタープライズが一つのバリューチェーンを構成し、コレクティブインパクトを生み出していく、とか

そういうことだと思うのです。

 

変化を生むためのマイクロシステム同士が有機的につながっていくという先進性

エコシステムを、システムの様々な構成要素が「有機的に」結びつき、エネルギーが「循環」していくことで広く共存共栄していく仕組みだと考えれば、Impact Bazaarの構想はまさに生態学的なエコシステムであって、21世紀型の組織がより生命的になってきたように、ソーシャルイノベーションのエコシステムも文字通りより生態学的な状態に近づいているのではないでしょうか。

イノベーションにおけるエコシステムと言うと、変化の直接的な担い手(例えば起業家)達と、それを支える周囲の様々なプレイヤーたちとの関係性や仕組みが語られることが多いように思います(下記は2012年SOCAP後のPost-session用に作成したソーシャルイノベーションに関するチャート。だいぶ昔ですね、、、)。

 

Eco-system For Social Innovation

2012年SOCAP後のPost-session用に著者が作成したソーシャルイノベーションに関するチャート

 

そうした議論の中では、いかにn対nの関係性をデザインしていくかにフォーカスがいきがちです。例えば、(エコシステムのドーナツ化と勝手に呼んでいるのですが)システムの中心にいるべき現場のプレイヤー達の議論がぽっかりと抜け落ちしてまっている現象(支援するよ、お金を出すよ、という人達がたくさん集まり、肝心の起業家の存在がどこかに置き去りのまま、仕組みづくりの議論がなされたりする)などに課題意識が向いていきます。

でも、実は、上記のチャートを「1人の起業家を中心とした1つの変化を生み出すための1つの(一方で他の変化にも開放的な)マイクロシステム」として捉えていくと、1つのマイクロシステムのデザインとは、その先にある、無数に散らばるマイクロシステム同士、すなわち変化と変化が有機的につながり、互いに依存し合っているという構造が浮かび上がってきます。これを局所的に補完するのではなく、仕組みとして生み出そうというところがこの取り組みのすごみなのではないでしょうか。

様々なリソース、ツール、バリューチェーンを物理的に一つの場に集約させたオープンなマーケットプレイスを創りだしたこと以上に、この「変化と変化を有機的につながっていく生態系」をデザインしようとしていることこそ、このImpact Bazaarの先進性であり、未来のソーシャルイノベーションのエコシステムの片鱗なのではないかと思います。

 

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