[メモ]市民組織がスケールアップするための秘訣:Functioning Organizing

[メモ]市民組織がスケールアップするための秘訣:Functioning Organizing

 Stanford Social Innovation Reviewで、市民組織のスケールアップについての記事があがっていました。

最近の自分の関心事でもある、社会ムーブメントがどうキャズムを越えていくか、ということにもつながるトピックで面白かったので、メモがてら簡単にまとめておきます。

出典:The Secret of scale http://www.ssireview.org/articles/entry/the_secret_of_scale

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Research Background

・著者は元Center for Progressive Leadershipの代表。草の根団体から国家規模の市民組織まで、1000以上のアメリカ市民組織のリーダーシップののコーチングを行う

・多くの市民組織が、一定数のコアメンバーを越えてスケールアップしていくことにかなり苦労している

・市民組織のスケールアップについて、National Rifle Association of America (NRA)、CASA de Maryland、AARP、San Francisco LGBT Community Center など50以上の団体をピックアップし、その事例をもとに調査

Key of Scale – Functional Organizing

スケールアップに成功した市民組織の組織構造、メンバーシップ、ビジネスモデル、組織ポリシーなどを分析した結果、どの組織も基本的なアプローチの仕方に共通項があり、それをFunctional Organizingモデルとよんでいます。

・Functioning Organizingモデルの基本は、日常的にメンバーにベネフィットを提供しながら、コミュニティと深い関係性を構築すること。彼らのエンゲージメントを高めることで、収益モデルが加速、長期的なsystematic changeを実現していくことができます。

・そのためのポイントは、メンバーに明確なベネフィットを提供(Provide Tangible Benefits and Services)、Face-to-Faceのコミュニティをつくる(Foster In-Person Member Communities)、組織内で多方向のコミュニケーションを実現するメディアプラットフォームの設計(Create Engaging Media Platforms)の3つ。

・これに対し、アドボカシー系団体に代表されるようなIssuing organizingでスケールした事例はほとんどない

 

 

How to Shift to Functioning Organization Model?


Although every community is unique in its needs and opportunities, there is a core set of components that leads to successful functional organizing. Launching a functional organizing initiative, however, takes a serious and sustained commitment to shift an organization to a functional model. Many groups just aren’t ready to make this leap.

 すべてのコミュニティは、独自のニーズ及び機会と向き合っているが、Fonctioning Oganizingの成功させるためのコアな要素は共通に存在する。しかし、Functional Oganizingの構想を実現し、組織をFunctionalモデルに移行していくには、持続的なかなりのコミットメントが必要である。そして、多くの組織は、この躍進を遂げられないのである。

Functional Organizingモデルへのシフトのポイントは以下の5つ。この5つのポイントを継続的に達成していけるかどうかが、スケールするかしないかのポイントになるとまとめています。

1) メンバーの課題理解 / Understand Your Members’ Challenges
企業が顧客と向き合わなければならないのと同じように、きちんとメンバーの本質的な課題を捉える。自分たちの活動が、メンバーの課題に対しての解決策、サポートになっていなければならない。(いいことをやっているからOK、ではないよね)

2)組織の強みと外部からの認識 /  Focus on What You’re Good at and Known for
組織のスケールアップにおいてレピュテーションは重要。メンバー達が自分たちの組織に対する認識と自分たちの組織の得意なこと、の二つに基づいて、提供価値とサービスを決定する。

3) 利益を生む商品やサービスをつくる / Create Products and Services to Generate Profits
きちんとマネタイズできるプロダクトやサービスを提供し、Self-sustainableな組織を構築していかなければならない。利益率の高い商品を一定の顧客集団に注力する方が、成功しやすい。

4)他の組織と協力して交渉力を高める / Join with Other Organizations to Negotiate Deals
ディスカウントなどの交渉を行い、コストを下げていくことは重要、Self-sustainableな組織を構築していく上で重要。交渉力を高めるためには、大きな規模でメンバーや受給者がいる必要がある。地域の他の団体と連携することで、対外交渉力を拡大し、サービスや商品にかかるコストを下げる。

5)ベンチャーフィランソロピー的な投資家を見つける / Find Funders Willing to Act Like Venture Philanthropists
毎年同じレベルのパフォーマンスをすればいいようなグラントをもらい続けても、成長の為に資金は使われない。5~8年で完全に外部資金無しでも持続可能なモデルが必要であり、そうでない団体は失敗する(べき)。そのために、ベンチャーフィランソロピー的な投資を受け、成長のための資金循環が求められる。

Create Virtuous Cycle

Functional organizing models that focus on building deep relationships with members have the potential to reinvigorate civic institutions across the country and engage millions of Americans in reshaping the fabric of society.

メンバーとの深い関係性に注力するFunctional organizing モデルは、市民組織を再活性化し、何百万人もの国民を社会の基礎構造の再構築に巻き込んでいける力があります。

組織を拡大させ、インパクトを高めていった事例として、移民問題に取り組むCASA de Maryland があげられています。きちんとしたサービス提供のもとで、組織の活動をサポートしてもらい、エンゲージメントを高め、そしてそれがまた組織の収益につながっていく、といった好循環が、Functional Organizing モデルのもとで、創られていくのだといいます。

 

最近は、ネット選挙やオープンガバメント、CODE for Japanなどの動きも起こりつつあり、市民を巻き込みながらよりより未来を創っていくことがますます求められいます。経済的な限界や社会課題の複雑化に疲弊してしまっているという側面も否めない現代社会ではありますが、

Whatever the form or goal of these civic organizations, they share the core underlying idea that citizens have the power to reshape our society

どんな組織であれ、市民組織の土台にある思想は、市民が社会の新しいカタチを創っていくことができるということです。

と、記事にもあるように、市民が自らの手で自分たちの心地よい、より調和のとれた社会を創っていくことの可能性を、今こそもう一歩切り開いていくタイミングなのかもしれません。

 

以前に、社会変革志向のツールとして、Theory of Change (セオリーオブチェンジ)、あるいはデザイン思考の記事を書きましたが、組織が目指すビジョンや社会変革を実現していく上での方法論も、少しずつ普及してきました(もちろん万能薬などありませんが)。

最近、様々な分野で起こっている社会を変え得る、けれどまだ臨界点には達していないようなムーブメントが、どうしたらキャズムを越えていけるか、というのが自分の中で一つのテーマとなっています。今回の研究は、スケールを、社会インパクトではなく組織の人数を基準に測っていた点で、課題もあると思いますが、こういった研究がどんどんなされていってほしいと思います。

出典:CollaborAction