植物を通じて世界と出会いなおす。生命再生の時代の道標(宇宙樹/竹村真一 その1)

Cosmic tree 宇宙樹。
人類学者 竹村真一。

年明けにふと久しぶりに手に取ってみたのだけど、
なかなかに凄まじい本だった。

なんというか、これからの時代の拠り所となるエッセンスが
大袈裟でなく、かなり鮮明に凝縮されている。

【植物と人類学をめぐる文明再考記シリーズ:宇宙樹】
植物を通じて世界と出会いなおす。生命再生の時代の道標(宇宙樹/竹村真一)
二元論を超えて、生命のあわいを漂う-生命の宇宙を身にまとう染織と薬草医学の通奏低音 -(宇宙樹/竹村真一・その2)

数年前にも読んでいるはずだし、以前に「触れる地球」の講演もきいたこともあったけど、
竹村さんがどういう視座で何をしようとされている方なのかがようやく腑に落ちた。

先日Ecological Memesでリリースした植物と人類学をテーマにしたプログラムのHPの最後に添えた言葉も
本書から引用させていただいた。

植物は、人間とその環境世界のつながりを担保する
個性的な媒介者であり、共進化のパートナーであった。

この言葉は、

これからの暮らしや文明の変容において、
「植物」というテーマが鍵になる。

ここ数年自分が感じていたそんな直観を鮮やかに後押ししてくれた。

植物「を」知ること、学ぶことという次元を超えて、
植物を「通じて/と共に」生命世界とつながり、出会うということ。

それをありありと伝えてくれる。

これは例えば畑をやったり、植物に詳しくなったり、自然豊かな環境で過ごしたりとかそういう話ではなく、内なる自然性(インナーネイチャー)やバイオフィリアへの感度を高めていくということだけでもなく、なにか根本的に異なる深度で、現代的な思考やまなざしでは通り過ぎてしまっている生命の世界と出会いなおしていく必要があるということ。生命感覚を、現代で捉えられているよりももう少し深度で取り戻していく必要があるということ。

樹は立ち上がった水だ。
失われた生命感覚の触発と調律。

これが単に過去の伝統社会への回帰を志向するようなノスタルジックなアイデアではないことは、各地の気候風土に根差し、自然環境と呼応しながら活動を営む実践者や職人さんたちの言葉に耳をすませばすぐにわかる。

例えば、第二章で「樹は立ち上がった水だ」という表現がでてくる。

母なる樹
・冬の間凍結による組織破損を防ぐために、ほとんど水を吸い上げていなかった木々が、春になるとあたらに地下の水脈に呼びかける。枝野先端についた幾多の新芽が、自らの秘め持つ水分からほんの少しづつ小さな水の種子を出し合って、もう一方の先端である根に「誘い水」を送るーーこれが大地と水脈に向けての木々達の最初の挨拶だ。

・するとそれに呼応して、この今できたばかりの「水の道」を大地の血液が毛細管現象でひたひたと昇り始める。人知れず地下を水平に伏流していた水が、樹木という生命の形を借りて、突然そこらじゅうで嬉しそうに立ち上がる。

立春を過ぎ、春を迎える森の樹々に耳をあてたことがある人ならわかるだろう。
眠っていた樹々たちの内側で生命の水脈が流れ出す音が響き渡る。

こうした植物と天体運行の相関が、樹木の伐採を生業とする林業家や、大工・建築家にとっても重要なコモンセンスであったわけだ。

各地でとんでもない解像度で山や森をみている木こりのおじいちゃんに話をきくと、必ずと言っていいほど、月の満ち欠けに合わせて伐採する月齢伐採や葉枯らし乾燥の話は出てくるし
(スピードと効率を重視する工業化された文明のリズムと流通は、こうした自然界のリズムとは合わないが故にこの技術文化は失われつつある。網目のように交互に木を倒しかけておく天然乾燥ができる木こりさんも今は多くないという)、

また、京都・京北でクロモジ等のオイルを精製している杉の精さん(ここを創業された村上さん&事業モデルがめちゃくちゃ面白い)にお話を伺った時にも、最高のオイルを精製する秘訣は、木を伐採するタイミング、つまり樹液の状態を観ることだと仰っていた。樹液だけでなく、木材を伐り出す際にも、固くて腐食しにくい材料を手に入れるには、樹液の少ない時期に伐採しなければならず、一年を通じて樹液の変化を考慮することが不可欠だったわけで、季節や天体の動きに相関する樹液が水を吸い上げる周期を常に自身と同期させているのだ。

当たり前のことだけれど、頭で理解しているのと、その変化を実際に感受し実践することができるのは天と地ほどの差がある。

私たちの日常の近くチャンネルを少しずらしてみれば、樹木は立ち上がる水の歓びの姿に、花は成就する精髄の舞にたちまち変容する。樹が静止した物体に見えるとすれば、それは私たちの生命感覚のレンジが狭すぎる」のだ。

杉の精の村上さん

あらゆる人間活動の営み(life)が、生命の営み(LIFE)として包み、包まれていく生命再生の時代へ

だからこれは、「これからの私たちの文明をどう軌道修正するか」の話だ。

翻訳を進めているRegenerative Leadershipの本の中で提示される「Life-affirming」というのも、
biomimicry3.8の創設者ベニュスの「Life creates conditions conducive to life(生命は生命を育み続ける条件を創り出す)」もそう。

Re-connecting to life。
生命とつながりなおす。

それは、人が生きていくことそのもの。
人生にゴールがあるのではなく、生きていくことそのものに宿るものがある。

仕事も暮らしもビジネスも。
行政も政治も家族もコミュニティもまちづくりも。
あらゆる人間活動の営み(life)が、生命の営み(LIFE)として包み、包まれていくこと。

あらゆる営みが、いのちそのものが育まれ、生命が繁栄していく方向へと向かっていくこと。
個やわたしを超えたところで、38億年ものあいだ絶え間なく続いてきたこの生命の摂理に、再び身を委ねること。

課題を解決したり何かを達成しようとすることではなく、いのちが再生(Regenerate)していく可能性を愛を持って常に見出し、関わり、呼応し、ダンスし続けること。それこそがリジェネレーションの時代に問われる抜本的なパラダイムの転換なのだと言い続けているけれど、

その入り口を植物は確かにひらいてくれるのだ。
これはヒトよりもはるかに長いあいだ生命を宿してきた植物たちからのメッセージなのかもしれないと思えるほどに。
このあたりは解剖学者・三木成夫さんのいう植物性臓器の視点にも通じるだろう。

ここ数年、Regenerative Leadershipをめぐる旅路を通じたそんな実感と
呼応するバイブレーションのある本だった。

ちなみに、本書が書かれたのは2004年。
「人と自然」や「エコロジー」という概念やまなざしそのものを問い直すところからEcological Memesが立ち上がっていったわけだけれど、ここにもすでにその一端を拓いてくださっている先駆者の方がいた!という感覚。

南方熊楠や山内得立、西田、今西、和辻あるいはオギュスタン・ベルク、木岡伸夫、三木成夫、木村敏、井筒俊彦、ティモシーモートン、ブルーノ・ラトゥール、ティム・インゴルド、エマニュエーレ・コッチャなど他にもたくさんの先人・巨人の肩に乗って、脈々と生命のみならず知と実践のバトンを受け継いできていることを実感する日々で、そのおかげで次の歩みを進めることができる。

本書から20年も遅れて、いよいよ時代はこうしたテーマに向かっていくだろう。その実践はもうさまざまなかたちで同時多発的に現れはじめている。僕らは今、まさにTwo Loopsのあわいにいる。

ベルカナ研究所のTwo Loopsモデル edited by Cassie Robinson.

夏至をめぐる高揚と相まって、だいぶ長くなってしまったので、本の中身についてはまた次回にもちこし。笑
下記と合わせてご興味ある方はぜひ。

宇宙樹 / 竹村真一

植物と人類学をめぐり、世界と新たに出会いなおす再生成の旅
Journey of Regeneration – episode.2 – [2022.06,29-10.10]