Theory of Change ~今あなたが変えたいのものって何ですか?~

Theory of Change ~今あなたが変えたいのものって何ですか?~

 

デザインとは何かというお題にからめて、Theory of Change (セオリーオブチェンジ) というフレームワークに迫ってみようと思います。(デザイン思考については前回のエントリーを参照して下さい)

Design と デザインは違う

シアトルに1年間、そしてサンフランシスコ/スタンフォードにSocial Innovationという切り口から3週間弱滞在して感じたことは、アメリカ人(というかEnglish speaker)の言うDesignと日本人の言うデザインのPictureが全然違うということです。それも世間一般が抱いているイメージが違います。

design

今回お会いした際にBtraxのブランドンさんもおっしゃっていましたが、アメリカと比べて日本ではデザイン教育の浸透の仕方がかなり浅く、デザインが”Design”として把握されていないような気がします。別にいい悪いの問題ではなくいですが、ただ問題解決としてのDesignの考え方は私たちの普段の生活における物事の見方を少し楽しくしてくれるのではないかと思い、僕が感じたことを共有します。

 

デザインとは問題解決である

日本語でデザインというとなんだかすごくクリエイティブでカラフルで、美術的な才能がないとできないようなイメージがありますが(実際僕も一ヶ月前まではそう認識していました)、実はデザイン(Design)はものすごく論理的なプロセスです。

もちろん問題解決のプロセスのあるフェーズにおいてはセンスだとか「天から降ってくる」ようなひらめき、独創性が入る余地は大きいかもしれません(デザイン思考におけるIdeateが一番想像しやすいかと思います)。

ですが、そういった能力やセンスを発揮する舞台にたどり着くまでもが「デザイン」で、ロジカルにロジカルに徹底して解決すべき問題に切り込んではじめて生まれてくる(活きてくる)クリエイティビティなんだと思います。

 

前回のエントリーにも書いたように デザインとは問題解決そのものであり、

もっと言えばデザインとは問題解決に至るまでの、論理の積み重なった一連のプロセスを全て包含した概念ということになります。

デザインというと私たちはなんか家具とかウェブサイトとか洋服といったフィジカルで目に見えるデザインばかりを想像してしまいますが、それらはデザインの一部のプロセスが形になったものであり、しかもデザインが生み出す成果物のうちの一部でしかありません。

 

例えば

「おじいちゃんは散歩の途中で座って休憩するところがなくて困っている」

という問題にアプローチした場合、散歩道に設置したベンチそのもの(Tangible)が成果物となりますが、

「おじいちゃんは散歩の途中で近所の人と交流する場がなくて困っている」

という問題にアプローチした場合、近所の人との会話といったコミュニケーションの体験(Intangible)が成果物となります。

前者の場合は散歩道の中で丁度疲れたところにベンチを設置した方がいいだろうし、「座りやすいベンチ」というようにいかに効率的に休憩ができるか、というところにフォーカスがいきます。 一方後者の場合は、座り心地といった機能よりもどこに設置すれば近所の人が集いやすだろうか、とか会話が生まれやすい席の配置はどういうものだろうか、といったコミュニケーション体験がよりスムーズに引き出すようなデザインが求められます。

なお、これはデザイン思考におけるDefineというプロセスにあたります。問題をどのように定義するかによってアプローチの仕方が全く異なってくる訳です。 ここで大事なのはおじいちゃんが口に出していうのはおそらく 「散歩の途中にベンチがほしいのう」 だけだということです。それをなんでベンチなのか、どうして必要なのかというWhyアプローチを繰り返す(でも直接聞くのではなくストーリーを紡ぎだす)ことで当事者本人の潜在的なニーズやwantに迫ることが大切です(Empathy)。

そうすることではじめて問題をDefineできるのですね。 こんなの当たり前のことじゃないかと思われるかもしれませんが、現実世界には当たり前のことが当たり前になされていない、あるいはとても非効率的になされていることがたくさんあるわけで、こういったプロセスを体系化したという点にデザイン思考の最大の価値があると思います。

 

Theory of Change

例えば「アメリカにおける低所得者地域の教育問題を改善する為のソリューション」を考えてみましょう。

うーん。お金がないから教育がうけられないのでしょうか。教育の質が悪いのでしょうか。それとも親が教育の重要性を感じてないのでしょうか。もしかしたらコミュニティのサポートがないのが原因かもしれません。

こういった状況でインベーティブなソリューションを求めて延々とやみくもに考えていても、広い宇宙のどこかに浮かんでいるタンポポの綿毛をつかむようなものです。

デザイン思考はここで力を発揮します。

Empathy, Define, Ideate, Prototype, Testというサイクルを繰り返すことでフォーカスしなければならないポイントをクリアーにすれば、クリエイティビティをより効果的に投入することが可能になるわけです。 当事者の目線から問題を構成する要素を洗い流し(Empathy)、その負のサイクルを断ち切るにはどこの要素/フェーズでリバレッジをかければ一番効果的なのかを考えます(Theory of Changeの考え方。後述します) 。

そして、解決すべき具体的な問題は何なのかをはっきりさせます(Define)。

 

「アメリカにおける低所得者地域の教育問題を改善する為のソリューション」 の例について考えてみると、

以下のような負のサイクルが見えてきます。

もちろんアプローチの仕方はいろいろあるので、この負のサイクルはあくまで一つの例ですが、じゃあここでどの要素にアプローチをしたら一番効果的なのだろう、つまりどの要素がChangeしたらこの負の循環を断ち切って正のサイクルをまわすことができるのだろう、と考えます(レバレッジポイントの決定)。

 

ここで大切なのが 『IF アクション → THEN 結果』 (こういうアクションをとればこういう結果になる) という思考回路を徹底すること。 もちろんこの矢印の部分にある程度のリスクは内包されてはいますが、それをふまえた上でこのIF とTHEN、つまりActionとResultの論理的整合性をきちんと検証していくことが大切になってきます。仮説と検証の繰り返しですね。失敗していく中で学んでいけばいいのです。その過程でリスクを軽減していくことになります。

そして様々な要素についてこのIF→THENを考えてみて(ブレスト)、負のサイクルに一番決定的な一撃を与えるかつ現実的なものをレバレッジポイント/Leverage Pointとしてピックアップするわけです。  

例に戻ります。

「質の高い教育する先生がこない」 これなんてどうでしょう。「いい学校にいけないから教師の質が低い」これって別に(事実ではあるのかもしれないけど)必然ではないですよね。

「低所得者層があつまる学校」に「質の高い教育を行うことのできる教師」を送り込んだらどうでしょうか。 実はここに着眼したのがかの有名なTeach For Americaです。 低所得地域の学校に優秀な教師を送り込むことで先ほど見たような負のサイクルを断ち切り、以下のような正のサイクルを構築します。

 

以上、こういった思考フレームワークをTheory of Changeといいます。   実は昨日この記事の原稿を書いた直後にTeach for AmericaのWendy 氏の来日公演及びTeach for Japan設立のイベントがありました。なのでこの記事の内容はとてもタイムリーです笑 代表の松田さんのプレゼンテーションはとても説得力があり素晴らしく、その中でも”Change”という言葉がキーワードでした。講演に参加された方であれば松田さんのおっしゃっていた”負のサイクルを断ち切る”ということがまさにTheory of Changeなんだということがわかると思います。

パネルディスカッションの様子

 

なおESIプログラム2日目に、Gwen Smith氏による”Theory of Change” workshopがありIF→THENなどの考え方はこの時に、またTeach For Americaの例はコーディネーターのEriによるワークショップから学んだものです。

そして今回のエントリーは前回も「社会起業家になりたいと思った時に読む本」でご紹介させてもらった井上英之教授をはじめとするプロジェクトチームの研究を参考にさせて頂きました。
出典:http://www.kri.sfc.keio.ac.jp/report/project/2007/5/5.html

Gwen氏のTheory of Change Workshop

 

どんな変化を起こしたいのか?

どんな団体やプロジェクト運営においても、「何をやっているのか」ということの透明性を維持するのと同時にどんなChangeを達成したいのかを明確にする事が求められています。

それをふまえた上でGwen氏はActionとResultの関係性を明確にすること、すなわちIF→THEN思考が大切だとし、 “Theory of Change is a roadmap of project achievement” (TOCはプロジェクトを達成する為の道標) とまとめておられました。

またLeverage Pointの決定に関して、多くのChangeの可能性を考える中でどうやってPrioritize(優先順位をつける)していくのか(一度に多くのことをやるよりシンプルにいくのがセオリー)と僕が質問したところ、 “Talk to people in that problem” (当事者に話すことが大事) とおっしゃっていました。

これについて少し考察。 これはTheory of Changeとデザイン思考、具体的にはEmpathyから Defineのプロセスとの強い関連性を示唆してるのだと思います。

特にEmpathyは Theory of Changeに欠かせない前提となります。当事者が何を感じ(Feel)、それに対してどう考え(Think), どう主張し(Say), どう行動している( Do)のか。ここに迫っていくことなしには負のサイクルから正のサイクルを構築する為のLeverage Pointは掴めません。

もっと言えばEmpathyを徹底することでブレストした多くのIF→THENに内包されるリスクを軽減させていくことができます。それがGwen氏の言っていた「当事者と話すことの重要性」なんだと思います。ただGwen氏は現地で必要な問題点やニーズは当事者がすべて知っているというスタンスで、もちろん現地の人々の想像のつかないような新技術の導入の効果に関しては述べていましたが、当事者さえも気付いていないような潜在的な問題点やニーズ(人の脳みその中の90%は潜在し、表面には出てこないと言われています)をどう見極めていくかといことに関してはあまり言及していませんでした。これに関してはCatapult DesignのTyler (この人めっちゃ面白い)がDAY5に言及していましたので今度、取り上げます。

ちなみにTOCは、アメリカでは社会変革志向のツールとして、NPOや社会的企業を中心にかなり広まっているようです。既存のビジネスの枠組みに囚われていないため、ボトルネックになっているポイントや経営資源の投入について、起こしたい変化(組織のゴール)を軸に評価・改善することができると言われています。

なお、前回も書きましたが、これはあくまでフレームワークなのでTOCさえ知っていれば誰でもChange Makerになれる、なんていう魔法のようなものではありません笑 山登りを助けてくれるツールであって、実際に山を登るのは自分しかいません。また、もちろん何かを「変える」ことだけがすべてではないですが、よりよい未来のためにはあなたの起こす変化が必要なのかもしれません。

Wendy氏も今日の講演で、”You can be the change. You can make a difference to a better world” とおっしゃっていました。

 

最後に今日TFJの松田さんから頂いた言葉を。

”今みなさんが変えたいものってなんですか?”

“「変わる」んじゃなくて、「変える」んです”