目にみえない存在たちへの畏怖。ぬか床や変形菌に関するおすすめ小説(沼地のある森を抜けて / 梨木香歩, 蛍女 / 藤崎慎吾)
はじまりは、「ぬかどこ」だった。
先祖伝来のぬか床が、うめくのだーーー
最近、ぬか床や菌や微生物の話ばかりしているせいか、ぬか床ライフを楽しむためのおすすめ本ありますかと聞いていただくことが増えたのですが、いつもおすすめしているのがこちら。
「西の魔女が死んだ」の梨木香歩さんの小説「沼地のある森を抜けて」。
一言で言うと、ぬか床をモチーフにしたファンタジー小説なのですが、作品の中盤以降、一気に物語の奥深くに隠された主題が急展開します。
自己とは何か。他者とは何か。
膜、壁(ウォール)、内と外、無性生殖と有性生殖、生と死。
生化学と哲学の混じり合う存在論を土台に、菌類の小宇宙とマクロコスモスを往復(というより、どちらなのかわからなくなっていくような、フラクタルな物語展開が素晴らしい)しながら、ぬか床や微生物たちの世界とともに広がっていく、自己というものの境界をめぐるあわいの物語。「円環と再生」という大きなテーマ。
それは、鴻巣友季子さんが解説でからくりからくさから引用されていた
「生きている命があるって、異常自体なのよねぇ」
という女子高生の台詞に集約されているのかもしれません。
あと、どうでもいいのですが、ぬか床ライフを楽しむという意味では、土偶を埋めてみるものおすすめです。
話を小説に戻して、微生物絡みでいえば、ハイドゥナンで有名な藤崎慎吾さんの森林環境SF「蛍女」。
森とのつながりを忘れ森林開発に勤しむ近代人と変形菌をテーマに書かれた小説。
南方洋司という生物学者がでてくるのですが、そのうち、彼は南方熊楠の子孫で…みたいな続編の展開に期待です(笑)。
この2つの小説、ともに、微生物や菌たちによって、人の暮らしがさまざまに翻弄されていくわけですが、そのリアリティがとてもいいなぁと思っていて。
菌とか微生物の話になると、どうしても人が菌たちを科学的に管理できるものだとどこかで思い込んでいたり、あるいは逆に、美しい共生の物語として回収されてしまうことも多いと思うのですが、
本当はもっと人知の及ばない領域とのせめぎあいの中で立ち現れてくる祈りとか、どこまでが人でどこまでが人ならざる存在なのかがどんどん曖昧になっていく生々しさや不気味さとか、でも、だからこその畏怖とか愛とか、そうしたものを思い出していくことがますます大事になっているような気がします。ダークエコロジーの話とかとも重なりますが、人間存在自体の危うさやリアリティはもう避けて通れない。
先日の菌トークでも、「カビがおりてくる」というまるで神様がおりてくるかのような表現に感動したという話をしたのですが、
菌や微生物に、恐怖ではなく、健全なる畏怖を感じて生きる。目にみえない存在とそんな付き合いの仕方を、昔の人たちはもっと自然にしていたのかもしれません。
あと、菌やウイルスに関する医療小説としては、上橋菜穂子さんの鹿の王ははずせません。映画化されるとのことで上橋菜穂子ファンとしては楽しみすぎます。
ちなみに小説じゃなく菌や微生物で、ということでしたら「土と内臓」「菌の声を聴け」「樹木たちの知られざる生活」あたりが入り口におすすめです。
あ、あと9月11日にはぬか床のお手入れコミュニテイに参加できるオープンイベントもありますので、ぬか床やられている方もはじめような迷っている方もぜひ。
【9/11(土)7:00 オンライン】ぬか床手入れの習慣を体験。ぬか床共発酵のリズム〜Nestoオープンルーティン
https://peatix.com/event/2830095/view