シスコのCHILLにみる顧客との共創プラットフォームの重要性 〜組織の境界を越えて多様な人財を呼び込むエコシステムづくり〜

前回の記事では、大企業におけるイントラプレナー自身の戦略アプローチについて書きました。今回と次回は大企業が組織としてイノベーションを加速させていくための仕組みづくりについて、「プラットフォーム」と「人・文化」という観点から書いていこうと思います。まず今回は、プラットフォームについて。

分野・業界を越えた参加型のイノベーション共創プラットフォーム

シスコのCHILLというイノベーションプログラムをご存知でしょうか。Cisco Hyper Innovation Living Labs略してCHILL。IoL(Internet of Things)を活用して既存の業界にDisruptiveな変革をもたらすビジネスを生み出すことを目的としたオープン・イノベーション創出プラットフォームです。

「顧客とのCo-creation(共創)」に徹底的にフォーカスをしており、リテールにおけるFrictionless Paymentをテーマに行われた第一弾ではCisco, Visa, Costoco, Lowes(住宅・生活家電のチェーン),  Nikeの5社が参画し行われました(ちなみにFrictionless Paymentは先日のMoney20/20でもテーマになっており、CHILLも登壇しています)。


from Cisco Hyperinnovation Living Lab on Vimeo.

 

プログラムは、FactoryというSkype co-founderのJanus Friisが後援するインキュベーターによるファシリテーションのもとで行われる、48時間のブートキャンプからスタートするのですが、イノベーションの定義をシュンペーターの言う「新結合」として扱っており、思いもよらなかった結合が生まれる瞬間をデザインすることがまずファーストステップだと言います。

CiscoのプログラムディレクターのKateは、アハモーメントになぞらえて”Oh Shit!(やられた!)モーメント”といっていましたが、その瞬間を生み出すためには分野・業界をまたいだ顧客との共創が不可欠だと言います(第一弾に続いて行われた第二弾もCisco, Airbus(航空機), DHL(国際輸送物流)、CATERPILLAR(建設機械)という面白い顔ぶれ)。

 

so why are we innovating as islands?Put your customer at the center of the process.(イノベーションは新たな結合そのものなのに、どうして自分たちでだけでやろうとするのか?顧客を価値創造プロセスの中心に取り込むことからはじめよう)- Kate O’Keeffe / Leader of the Services Innovation Excellence Center at Cisco

 

イノベーションは個人の顧客との信頼関係こそがイノベーションを加速させる

名前にハイパーイノベーションとついている通り、CHILLでは変化の激しいビジネス環境の中で徹底的に高速プロトタイピングを回しながら、クイックにビジネスアイデアを市場に投入していくというスピード感を重要視しています。”Frictionless Retail”をテーマにした第一弾では、48時間で生まれた4つのDisruptiveなアイデア(想定市場規模は$4Bとのこと)を、ブラッシュアップをしながら60日間でマーケットに投入。

このスピード感を実現するためにKateが繰り返し強調していたのは、イノベーションは個々人のパッションからはじまり人と人との信頼関係によって加速するということ。

彼女自身のイントラプレナーとしての経験から、結局イントラプレナー的な動きを推し進めてくれるのは、何か困った時に助けてくれる人達が周囲にいるという信頼に溢れる組織環境だっという考えを持っており、ブートキャンプで生まれたアイデアがアイデア倒れで終わらないように、その後のエグゼキューションプロセスで必要となるリソースをプラットフォームに集約することが重要だと言います。

"Innovation moves at the speed of trust"

“Innovation moves at the speed of trust(顧客との信頼関係こそがイノベーションを加速させる)”

Spin out ではなく Spin Inというアイデアのエグジット戦略

CHILLではアイデア創出だけではなく、その後の顧客開発やエグゼキューションに向けたプロセスを大切にしており、アイデアが生まれた後の4つのエグジットオプションがあります。

参画企業による事業化、参画企業がCiscoと協業で事業化、内部インキュベーション、外部インキューベーションという4つのエグジット戦略。

参画企業による事業化、参画企業がCiscoと協業で事業化、内部インキュベーション、外部インキューベーションという4つのエグジット戦略

面白いなと思ったのは、Ciscoのリソースを活用した社内インキュベーションに”Spin In”という表現をつかっていたこと。大企業からのSpin Outという概念はよく言われますが、CHILLの場合、そもそもCisco自身もCHILLのプラットフォームに「参加」しているという考え方なので、そこから社内で事業化していくのは”Spin In”なんですね。

ちなみにこのプログラムは、なんと参画企業が平等に投資(コスト負担)をしており、そのあたりもオープンな共創型のプラットフォームとしての思想が徹底しているなぁと感じました。

 

オープンイノベーションを加速させるために求められる、多様な人財を呼び込みアイデアをマーケットに送り込むための参加型プラットフォーム(エコシステム)デザイン

CiscoのCHILLのようなプログラムからの示唆は、大企業には自分たちでイノベーションを生み出していくことだけではなく、人財を呼び込み、業界をDisruptするようなアイデアを次々とマーケットに送り込んでいくための参加型の共創プラットフォームのデザインが求められているということ。

不確実性の高い新たなアイデアをマーケットに送り込み続けるには体力とリソースが必要なので、このエコステムの基盤は大企業でなければ担っていくことは難しいし、なによりも先端の知が自分たちのもとに集まるプラットフォームの仕組みをつくることで、大企業自身の新たな価値創造にドライブがかかるということです。

その重要性が語られるのは特段新しいことではないですが、こうして地に足を着けたかたちで実際に泥臭く実践を重ねるというのはさすがCiscoという感じです。

ちなみに、そのあたりのオープンイノベーションの営みを加速させるにあたり、FactoryというインキュベーターがCHILLのプログラムをファシリテートしていたように、共創をファシリテートしていける人財の重要性についても併せて語られていました。

 

イノベーションそのものではなく、組織としていかに持続的にイノベーションを生み出していくためのケイパビリティを醸成するか

CHILLを生み出したのは、Services Innovation Excellence Center (SIEC)というイノベーションセンターです。SIECでは、イノベーションのケイパビリティ開発戦略として、

  • Build Capability(ケイパビリティ構築)→トレーニング、ツール、指標、リーダーシップ育成など
  • Ignite the Base(環境促進)→エグゼクティブのコミットメントの維持(シスコの副社長もこのプログラムに実際に参加しています)
  • Imagine the Future(未来志向)→長期的なインパクトのある機会の探求とドライブ
  • Change the Customer Conversation(顧客との関係性の変化)→シスコのコラボレーションケイパビリティを活かした、顧客との共創

という4つのベクトルを掲げ、これまでCHILL以外にも、SmartZoneというアイディエーションとエグゼキューションをブリッジするためのクラウド・プラットフォーム(HBRとマッキンゼーがやっているM-Prizeを2012年に受賞)などに取り組んできています。

重要なのはこのセンターが担うのは、イノベーションそのものではなく、「イノベーションの組織的ケイパビリティ醸成」のための機能だと言うこと。6ヶ月のInnovation Rotation Assignmentやイノベーションカタリストの推進などの制度にも力を入れているそうです。

よくあるイノベーションセンターでは、イノベーションをそのものを生み出すための方法論が語られることが多いですが、結局、大きな組織が持続的にイノベーションを加速させていくためには、イノベーションを生むことを目的(課題設定)とするのではなく、持続的に新たな価値創造を行っていくためのケイパビリティを開発していくことにフォーカスをしたシステムデザインが必要になるのではないでしょうか。

次回は、組織的なイノベーションのケイパビリティ醸成における、パーソナルサステイナビリティ、Self-identify(自己探求)という考え方の重要性について書こうと思います。

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▼イントラプレナーシップカンファレンス・レポート
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【Vol.1】イントラプレナーシップの最先端 〜大企業でイノベーションを加速させるための戦略的アプローチとは〜
【Vo.2】シスコのCHILLにみる顧客との共創プラットフォームの重要性 〜組織の境界を越えて多様な人財を呼び込むエコシステムづくり〜
【Vol.3】イントラプレナーシップにおける自己探求の営みと組織が向き合うべきパーソナル・サステイナビリティという考え方
【Vol.4】全米から注目が集まるコーポレートアントレプレナーシップアワード2015 〜ゼロックスと恊働する遠隔医療の風雲児から孤児を支えるメンターシッププログラムまで〜
【Vol.5】IMPACT BAZAARが創りだそうとしているソーシャル・イノベーション・エコシステムの先進性とは?

 

 なお、2016年のカンファレンスについては記事やイベントレポートで一部掲載中。

組織が変化し続けていくための装置としてオープンイノベーションを捉える