イントラプレナーシップにおける自己探求の営みと組織が向き合うべきパーソナル・サステイナビリティという考え方

イントラプレナーシップにおける自己探求の営みと組織が向き合うべきパーソナル・サステイナビリティという考え方

大企業が組織としてイノベーションを加速させていくための仕組みづくりについて、前回は顧客との共創プラットフォームについて書きましたが、今回は人や文化という観点から書こうと思います。

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(目次)
・LearnでもBuildでもなく、イントラプレナーシップを”Self-identify(自己探求)”する
・イノベーションにおけるパーソナル・サステイナビリティ(個人の内面的な持続性)という考え方
・顧客起点だけではイノベーションは続かない。マインドフルな在り方とイノベーションの交わりこそがイントラプレナ–シップ。
・イノベーションの種を持続的に生み出し続けるための社内エコシステム ~アイデアを創出したChampionと事業化にコミットするTHNKI&DOタンクの協働~
・組織としてイノベーションと向き合い続けるとはどういうことか
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LearnでもBuildでもなく、イントラプレナーシップを”Self-identify/自己探求”する

今回のカンファレンスで最も印象的だったフレーズの一つに “Self-identify your intrapreneurship”という表現があります。組織的なイノベーションのケイパビリティをどう醸成していくかという議論の中で、社員一人一人が自分の内面と向き合い、自分の内側にあるEntrepreneurshipと出会っていくことの重要性が語られていました。

よりEntrepreneurialな組織文化を築いていくために、この”Self-identify”に組織として真っ向から向き合い、カタチにしていると感じたのがVodafone Global Enterprise。

Director of InnovationをつとめるShannonの”Kickstarting Cultural Change”セッションでは、経済合理性やいわゆる”イノベーション”至上主義に囚われることなく、個人の思いや成長と企業として価値創造をアラインさせ、活き活きと働いていくための組織・文化づくりのプラクティスがシェアされ、非常に興味深い内容でした。

イノベーションにおけるパーソナル・サステイナビリティ(個人の内面的な持続性)という考え方

組織におけるIntrapreneurshipとInnovationは相互に影響し合っているわけですが、Vodafoneではその土台にPersonal Sustainability(個々人の内面的な持続性)という概念をおいているそうです。ようは、イノベーション、イノベーションとは言うけれど、結局大事なのは「人」であって、個々人の心の在り方(マインド、パッション、感情など)と調和がとれていなければ持続的な価値創造にはつながらないという考え方です。

Shannonの手掛けるVodafone Innovation Challengeという取り組みは、当初は社員からあまり受け入れられなかったそうです。多くの社員はInnovationや挑戦と言われても、”hmm, it’s not for me…(自分とは関係なさそう…)”というのが現状だったと言います。

その後、試行錯誤を繰り返しながら、社員にとってのbenefitを考え抜いた結果、Personal Sustainabilityという考え方に行きつき、個々人の成長やステップアップにフォーカスをした人材育成プログラムとしてのデザインがはじまったそうです。個々人が活き活きと仕事をしていくための機会としてイノベーションプログラムを位置づけたということですね。

※人材育成の考え方を持っているとは言え、セクシーでなくなってしまうのでHRのプログラムにはしたくないと言っていました。以前の記事でも述べたように、HRは既存の文化を担う存在として捉えられているようです。

顧客起点だけではイノベーションは続かない。マインドフルな在り方とイノベーションの交わりこそがイントラプレナ–シップ。

Vodafone Innovation Challengeでは、

  • Customer focus(顧客フォーカス):顧客インサイト・リサーチ
  • Thought leadership(思想リーダーシップ):思想リーダーシップ、個々人のマインドフルな在り方をサポート
  • Internal innovation(イノベーション文化):新たな価値創造のためのグローバルなコミュニティ・ビルディング
  • The studio(スタジオ):カリフォルニアにあるクリエイティブスペース。Think&Doタンク

の4つを活動の柱にしています。

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先ほどのPersonal Sustainabilityという視点を踏まえても、Thought Leadershipが一つの柱となっていることを考えても、このプログラムの興味深いところは、顧客フォーカスであり、かつ、担い手(社員)フォーカスであるということです。
 
前回の記事で書いたCHILLにおける顧客との共創もそうですが、今回のカンファレンス全体を通してイノベーションにおける顧客起点の重要性は強く訴えられていました。ただ、重要だなと感じたのは、それだけではイノベーションは続かないということ。結局は担い手の「心」がその価値創造の営みとつながっていく仕組みをつくらなければ継続的な営みにはなっていかないのだろうなと思います。
 
Vodafoneのプログラムは、個人のマインドフルネスな内面の在り方とイノベーションの交わりを扱おうとしていますが、それこそがまさにイントラプレナーシップであって、この視点は組織におけるイノベーションを考えていくうえでは重要になるだろうと思います。
 

イノベーションの種を持続的に生み出し続けるための社内エコシステム ~アイデアを創出したChampionと事業化にコミットするTHNKI&DOタンクの協働~

ちなみに、少し本題とはずれますが、VodafoneのInnovation Challengeは、アイデアのエグゼキューションの仕組み(アイデアの思いや熱量を事業化フェーズへと引き継いでいく仕組み)についても非常に良く設計されていました。

Vodafone Innovation Challenge におけるCo-creation Methodology

まず[1.Discovery]ではブートキャンプが行われ、そこで生まれたアイデアは、[2. Selection]で行われる共創ワークショップで、フィージビリティやビジネスモデルの観点からフィードバックがかかり、エグゼクティブレベルの提案までブラッシュアップされます。

その後、[3.Executive Commitment]でエグゼクティブへのピッチが行われ、通過したアイデアには一定の予算が割り当てられ、2~3ヶ月間の[4. Design+Validation]を経て、[5. Decision Go-Big/Stop] にてエグゼクティブから事業を拡大するのか止めるのか(もう一度design+Validationに戻る場合もあります)の意思決定が行われるという流れです。

よく設計されているなと思ったのは、エグゼクティブのコミットメントを得たあとの事業化フェーズ(design+validation)は、先ほど紹介したカリフォルニアにあるStudio(クリエイティブスペース。Think&Doタンク)の社員が80%を担う仕組みになっていることです。

一方で、エグゼクティブへのピッチを通過したアイデアオーナーはChampion(Championには、擁護者、支持者という意味があります)と呼ばれ、事業化のフェーズではエグゼクティブとして残りの20%を担い、自らが生み出したアイデアの事業化を支援します。

実際にChampionになった人も一緒にカンファレンスに来ていましたが、これまでSalesやFinanceの仕事をしていた彼らにとって、事業の舵取りというのは非常にチャレンジング。メンタリングや研修などのサポートを得ながら、これをやり遂げていくのは貴重な成長の機会であり、これまで感じたことのない、自分の仕事へのパッションや意義を見出すことができたと言っていました。

カンファレンスに参加していたChampion

カンファレンスに参加していたChampionが彼自身のストーリーをシェアしてくれました

シスコのCHILLのエグジット戦略もそうですが、大企業においてはアイデアを生み出した人とそれを実際に事業化する人は異なる場合が多いので、思いや熱量をどう引き継いでいくのかという観点からもアイデアのエグジット戦略は非常に重要になります。

アイデアを生み出した人(チーム)が通常業務に上乗せで事業化を担うのでは負荷がかかりすぎるし、一方で事業開発チームに全てを任せてしまっては、事業化に一番重要なパッションがないためにいつの間にかPJTが消えてなくなってしまうということも起こります。

そんな中、このアイデアオーナーであるChampionと事業化にコミットするTHINK&DOタンクが協働していく仕組みは、とても上手く設計されているなと思いました。結局、業界のdisrupt/transformイノベーションというのは結果論でしかないので、こうして持続的に種を生み出し続ける仕組みをつくれるかどうかが鍵なのだろうと思います。

組織としてイノベーションと向き合い続けるとはどういうことか

話を戻すと、組織として持続的に新たな価値創造の営みをしていくために、Personal Sustainability(個々人の内面的な持続可能性)やself-identify inner intrapreneurship(イントラプレナーシップの自己探求)という考え方は非常に重要になるのではないでしょうか。
 
カンファレンスに来ていたChampionは、最初にInnovationと聞いた時は、「なんだ、またInnovationか」と思ったけれど、最初のブートキャンプで、「Innovation is all the change of how you look at the world. What Have you innovate in your life, especially for your importance?(イノベーションとは、あなた自身の世界の見方が変わること。あなたにとって大切なモノのために、これまでの人生でどんなイノベーションを起こしたことがありますか?)」という問いかけを受けて、衝撃を受けたそうです。
 

Innovation is all the change of how you look at the world. What Have you innovate in your life, especially for your importance? (イノベーションとは、あなた自身の世界の見方が変わること。あなたにとって大切なモノのために、これまでの人生でどんなイノベーションを起こしたことがありますか?)-  Shannon Lucas / Director of Innovation at Vodafone Global Enterprise 

 

この言葉を聞いた後、2年程前、イノベーションと自己内省をテーマに、結局、自分とは何者か向き合うことがイノベーションの原点なのではないか、という記事を書き、ダイアローグイベントを開催ことを思い出しました。

自己内省はイノベーションに必要か?〜イノベーションにおける個と組織と社会の関係性を捉え直す〜

イノベーションを起こせと言われて、途上国に視察にきた日本の企業人たちは、現地の人たちに「あなたたちにとって、イノベーションとは何か?」と聞かれて答えられないといいます。

U理論で有名なオットーシャーマの言う、個々人の内面の状況こそがイノベーションの盲点であるという考え方や内面の源(Inner Source)と向き合うという考え方を、組織としての問いに転換し向き合っていくことが、組織としてUの谷を下り、出現する未来と出会う第一歩なのかもしれません。
 
イノベーションというテーマの元では、いかにしてイノベーションを起こすかという”How”の議論に終始してしまっていることもよくありますが、そうではなく個人の内面やPersonal Sustainabilityの観点から”Why”に向き合っていくということが、まさに「イントラプレナーシップ」であり、このカンファレンスが「イントラプレナーシップ」カンファレンスであることの意義なのではないでしょうか。
 
 
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▼イントラプレナーシップカンファレンス・レポート
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【Vol.1】イントラプレナーシップの最先端 〜大企業でイノベーションを加速させるための戦略的アプローチとは〜
【Vo.2】シスコのCHILLにみる顧客との共創プラットフォームの重要性 〜組織の境界を越えて多様な人財を呼び込むエコシステムづくり〜
【Vol.3】イントラプレナーシップにおける自己探求の営みと組織が向き合うべきパーソナル・サステイナビリティという考え方
【Vol.4】全米から注目が集まるコーポレートアントレプレナーシップアワード2015 〜ゼロックスと恊働する遠隔医療の風雲児から孤児を支えるメンターシッププログラムまで〜
【Vol.5】IMPACT BAZAARが創りだそうとしているソーシャル・イノベーション・エコシステムの先進性とは?
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