イントラプレナーシップの最先端 〜大企業でイノベーションを加速させるための戦略的アプローチとは〜
先日NYCで開催されたIntrapreneurship Conferenceというイントラプレナーシップに関するカンファレンスに参加してきました。世界から集まるイントラプレナー達とあーだこーだと議論を交わしながら、感じてきたことをこのブログでも少しずつシェアしていきたいなと思います。まず今回は、どんなプレイヤーが集まり、どんな議論が交わされていたのかをざっくりとハイライトできればと思います。
イントラプレナーシップに携わる様々なプレイヤーがNYCに集結
Intrapreneurship Coferenceは、イントラプレナーシップをテーマに、大企業で活躍するイントラプレナーや、イントラプレナーシッププログラムを創っている人たちが集まるなかなかマニアックな国際カンファレンスでした。「大企業におけるInnovationをどう加速させていくか」ということをメインテーマに、そのための現場での方法論、組織づくりや企業内アントレプレナーシップ文化醸成に関する議論が行われました。
今回の参加者は約120名ほどで、欧米を中心に、大企業のイントラプレナー(新規事業開発やR&Dの人もいれば、所属部署とは関係なく事業を立ち上げた人もいます)と、そうした動きを加速させるためのプラグラム・組織づくりを担う人、そして彼らを支援・協業する様々な外部プレイヤー(Think&Doタンク、イノベーションファーム、インキュベーターなど)が集まっていました。
また、政府関係者(オーストラリア政府の官公庁向けアントレプレナーシップ醸成プログラムを担当している人などもいました)やNGO、ビジネススクールのdirectorなど、大きな組織におけるアントレプレナーシップの醸成、イノベーティブな文化醸成に関心のある人達も一部セクターを越えて参加をしていました。アジアからの参加者はほとんどおらず、マレーシア、オーストラリアからの参加者がいた程度でしょうか。
ミドルクラスはスキップ?HRは依然として既存の組織文化を担う存在としての位置づけ。
構成比でいうと大企業からの参加者が約5割、外部プレイヤーが4割、その他1割といった感じでしょうか。業界としては、自動車、ヘルス、保険、モバイル、製薬などが多かった印象。
役職としては、新規事業開発の担当者から組織全体のイノベーション・ディレクター、子会社のエグゼクティブクラスまで幅広く参加していました。やはりというか、面白いことに、参加者はみなトップか現場かという感じで中間管理職の人はほとんどいなかったですね。「いかにミドルクラスをスキップするかあるいは協力してもらうか」という議論は世界中で行われいるようです。
イノベーティブな組織を創るためのプログラムや組織づくりの領域では、IBM、Vodafone、Cisco、Mastercard, Google、Paypal、DailyNewsなどから企業内でのイントラプレナーシッププログラム/イノベーションプログラムのファウンダーやディレクターが参加していました。このあたりのイノベーション・プログラム、エコシステムづくりもかなり面白かったのでまたご紹介したいと思います。
あとは、企業内のイントラプレナー同士をつなげ、ナレッジやプラクティスの交換を行うグローバルコミュニティを立ち上げている人なんかもいました(イントラプレナ–同士をつなぎコミュニティ化していくボトムアップの動きは今回参加していた幾つかのグローバル企業でも進んでいるようです)。
一方で、HRからの参加者はみられませんでした。人事制度や社内評価の観点からイントラプレナーシップでは必ず議論になるHRですが、カンファレンスでの議論を聞いていても、HRはあくまで説得すべきStakeholderであって、新たな文化醸成の担い手としては位置づけられていないようでした(中には、イントラプレナーシッププログラムの価値観が壊れるので、HRのプグラムには絶対にしたくないと主張するプログラムディレクターもいました)。
Social Intrapreneurshipをテーマに集まったランチ・アンカンファレンス(参加者達が自らテーマを出し合い、話し合いをするスタイル)では、HRこそトランスフォームが必要だという議論もありましたが、まだまだ、既存の組織文化を担う存在としての位置づけに留まっているのが現状のようです。
組織変革における重要性が高いだけに、大企業におけるHRの役割がターニングポイントを迎えていくという流れは遅かれ早かれ今後必ず起こりそうですね。
企業内アントレプレナーシップに特化した外部プレイヤーが、必要なスキルセットや方法論を提供しつつ、アイデアだけではなく、実行までをCo-creationで支援
外部プレイヤーとして集まるプレイヤーも、いわゆる大手コンサルやシンクタンクというよりは、
・大企業向けにイントラプレナーシッププログラムを提供するAcademy for Corporate Entrepreneurship
・大企業におけるLean Startupを提唱してベストセラーになった “The Lean Entrepreneur“の著者Brant CooperのMovetheneedle
・イントラプレナーシップ醸成に特化したThink&Do タンク
など、イノベーションやコーポレートアントレプレナーシップに特化したプレイヤーがほとんどでした(PwCのパートナーとかもきていましたが)。IDEOなどのデザインファームも幾つか参加をしていました。
こうしたプレイヤーの役割は明確で、一つ目は新規事業をStartupさせるためのスキルセットや方法論を提供すること。二つ目はCo-creationを通じて、Innovativeなアイデアを生み出すこと。そして、三つ目は組織内でのExecution(実行)を支援し、エビデンスを提供すること。
思っていた以上に、三つ目の支援にも噛み込んでいるようで、イントラプレナー的な動きをいかにして”Driven from TOP”、つまりTOPからのサポートがある状況に持っていくか、というところで支援しているようです(主にエビデンスづくり)。
大きな組織でイノベーションを起こしていくためのBottom→Top→Bottomモデル
米国企業ではトップダウンでイノベーション創造系のプロジェクトが行われると言われたりしますが、必ずしもそういったケースばかりではありません。
イントラプレナー的な動きをかたちにしていく際に、必ず「大企業の組織構造や保守的な組織文化をいかに乗り越えていくか」という議論が起こるのは、日本でも欧米でも同様。「日本の大企業は保守的で…」なんてよく言われたりしますが、それは欧米でも同様で、保守的な大企業なんでいうのはいくらでもあるわけです。
面白かったのはImmune System、つまり組織の免疫システムという表現。個人や権力の責任というよりは、明確にシステムとしての反応という見方がされていたように思います。
ただし、日本の大企業でみられるような「基本的には担当部署の社員などステルスモードで頑張って、成功してはじめて表に出てくるボトムアップ型の動き」というよりは、「小さなエビデンスをつくって出来るだけ早い段階でトップダウンに持っていく(Driven From Top)」のが主流のようです。
やはり始まりは担当部署の社員個人などで、小さく実験を繰り返しながらカスタマーエビデンスを積み上げ、なんとかDriven from Topに持っていく、そしてエグゼキューションは現場に戻ってくる、というbottom→top→bottomのモデルという感じです。ミドルをとばし(説得し)てTopのサポートをとりにいくというのはほぼ共通認識。ここに、先ほどの外部プレイヤーと共創しながらカスタマーエビデンスをつくっていきます。(Topからのサポートを得る上でのカスタマーエビデンスの重要性はとても強調されていました)
出来るだけ早い段階でステルスモードを脱するための戦略 〜徹底したビジョンとのアライン、エビデンスの蓄積、明確なマイルストーン〜
日本と少し違うなと感じたのは、ステルスモードの期間を長くし過ぎない、という意識が強くあること。ずっとステルスで成功したものだけが表に出て行くのでは、いつまでたっても失敗を許容する文化が醸成されない。小さな成功・失敗を歓迎する文化をつくっていくためにも、一定の透明性を保って”visible&transparent”に進めていくことの重要性が議論されていました。
そして、それを可能にするためにも重要になるのが、ビジョンや戦略との徹底したアラインやカスタマーエビデンスの計測と蓄積、明確なマイルストーンをしき、そのマイルストーン自体を承認してもらうことで既存事業のKPIに巻き込まれないようにするといったアプローチ。このあたりは、なんとしてでもやり遂げるというイントラプレナー自身の「熱量」と、グローバル規模の組織を内側から変えていくための「戦略性」、そして組織として挑戦文化を育んでいくんだという「組織愛」を感じました。
(とはいえ、何か正攻法的アプローチがあるわけでは全くないので(No Silver Bullet for intrapreneurship)、先ほどのBottom→TOPの機会づくりとか、表に出してもつぶされずに頑張るとか、マイルストーンを承認してもらうかとか、もちろん実際には相当泥臭く動き回っているのは、どこでも同じですね)
まずはこのあたりまで。
次回は大企業におけるイノベーションを生み出す社内エコシステムの潮流について書こうと思います。
ちなみに、今回で6回目の開催となるこのカンファレンスですが、主催チームに話を聞いたところ、毎回この規模にチケットを制限しているのは、インタラクティブなワークショップやディスカッションを行うためだそうです。結局、貴重なぶっちゃけ話や有意義なtakeawayってステージ裏で話してはじめて聞けたりするので、こうした設計は重要ですよね。
規模が大きすぎてキーノートを聞くだけになりがちな他のカンファレンスと比べても、参加者同士のコミュニケーションやディスカッションの機会はきちんと設計されており、こういうのだったら日本でもやりたいなぁと思えるカンファレンスデザインでした。主催メンバーと色々と話をして、日本でもやらないかという話をもらったので、日本でもイントラプレナーシップの動きをさらに加速させていくきっかけをつくっていけたらなぁと思います。
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▼イントラプレナーシップカンファレンス・レポート
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【Vol.1】イントラプレナーシップの最先端 〜大企業でイノベーションを加速させるための戦略的アプローチとは〜
【Vo.2】シスコのCHILLにみる顧客との共創プラットフォームの重要性 〜組織の境界を越えて多様な人財を呼び込むエコシステムづくり〜
【Vol.3】イントラプレナーシップにおける自己探求の営みと組織が向き合うべきパーソナル・サステイナビリティという考え方
【Vol.4】全米から注目が集まるコーポレートアントレプレナーシップアワード2015 〜ゼロックスと恊働する遠隔医療の風雲児から孤児を支えるメンターシッププログラムまで〜
【Vol.5】IMPACT BAZAARが創りだそうとしているソーシャル・イノベーション・エコシステムの先進性とは?
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