
共創のための心技体とは 〜ファシリテーションの在り方から考える共創型リーダーシップの意志と覚悟〜
先日、久しぶりに一般向けの「共創を生み出すビジネスファシリテーション体験講座」を一般の方向けに開催しました。
前半はファシリテーションの基本エッセンスをお伝えし、後半は演習ワークで実際にファシリテーターを体験して学びを深めてもらう集中講座。振り返りやその後の参加者との対話の中で、感じたことがあったので書き留めておきます。
(目次)
– ファシリテーションはスポーツに近い?
– 自分が何者としてその場に関わるかという意志と共創型リーダーシップ
– 心技体をばらばらに捉えてはいけない
– 参加者自らが問いを紡ぐ、ということ
– 今後の講座開催について
なお、講座では、ファシリテーションの考え方やスキル、準備をするためのフレームワークなど実践的な思考法や基本テクニックを、ビジネス文脈に合わせて実際の事例も交えながらお伝えしたのですが、この記事ではそのような講座の内容を書くわけではないのでご了承下さい(m_m)
ファシリテーションはスポーツに近い?
演習ワークを観察しながら、ファシリテーションはスポーツや柔術に通じるものがあるなとひしひしと感じました。
ファシリテーターの心や意志が、無意識的に身体の反応に出てしまうんですよね。早く先に進めるために、話し合いに関わっていない参加者とのコミュニケーションを閉ざすように身体の向きが変わっていく、とか、問いを投げかける時に主語にどの言葉を使うか、とか。
ファシリテーター自身の心の有り方や参加者への信頼、そして場に対する意志・信念、そういったものが言動や振る舞いに無意識のうちに現れてくる。そして、それは否応無しに参加者に伝わっていく。
そんな演習ワークのリフレクションで、参加者同士の対話の中から浮かび上がってきたのが、「果たして自分はその時に、ファシリテーターとしてその場の参加者を信じれるのだろうか」という問い。
あぁ、この問いがようやくでてきた、と。
自分自身が何者としてその場に関わるかという意志と共創型リーダーシップ
いつもならこのままチェックアウトをしてクローズするんですが、「実は、もう少し先があるんです・・」と、僕が大切にしている二つの言葉をお伝えしました。
If you are a poet, you will see clearly that there is a cloud floating in this sheet of paper. -Thich Nhat Hanh
(あなたが詩人であるなら、この一枚の紙の中に雲が浮かんでいるのを見るでしょう)
システムへの介入の成功は、介入者の心のあり様に依存する – ウィリアム・オブライエン ハノーバー保険会社 前CEO
物事はどこかで全てつながり合っている(inter-beng)。瞼を閉じた時にそのことに思いを馳せることができるかどうか。そしてファシリテーターとしてその場に立つということは、あるシステムの中に自分が介入していくということ。自分自身が何者としてその場に関わるかという意志・姿勢は、否応なしにその場から生まれてくるものに影響していく。
その時に問われるのは、参加者を信頼し、その場で生まれてくる「何か」を信じる覚悟があるかどうか。
ファシリテーターとして場に携わったことがあれば誰しも感じたことがあるのではないかと思うのですが、実際に場に立ってみるとその覚悟とはすなわち恐怖との対峙だったりします。その場に求められる成果が大きければ大きいほど、それまでに積み上げてきたものを手放すのが怖くなる。
そうなった時に、ファシリテーターの在り方を決めるのは、結局はその場にいる人を「信じる」勇気を持てるかどうか。恐怖を手放した先に、生まれてくるものがあると信じることができるかどうか。
中野民生さんの言っている、ファシリテーターは自分自身の中で起こる感情や反応に敏感になろう、というのも、ファシリテーター自身もその場(システム)の一部として在るということだと思っている。
結局、共に創るっていうことはそういうことなんじゃないかと。
組織におけるリーダーシップの在り方も変わってきている中、これはリーダーのtransformを支えるコアの一つだよなぁと。
ファシリテーションがリーダーの在り方そのものに重要な方向性を指し示している、というのは、この共創のための在り方と意志が求められるからなのだと思っています。マネジメント、管理、コントロール、こういった言葉を手放した先にこそ、共創の可能性が広がっている。
心技体をばらばらに捉えてはいけない
そんなファシリテーションのスポーツ的側面、心の在り方について考えていたら、先日出会ったWiredの素晴らしい記事を思い出しました。
– イノヴェイションのありかは、 「もうひとりの自分」が教えてくれる
アーティストの鈴木康広さんのイノヴェイションに関する記事なのですが、これが物凄く面白い。
ぼくがいつも作品制作を通してやっていることは、いくら観察しても見えてこないような、世界の成り立ちに思いを馳せること。「いま見ているもの」に何らかのバイアスがあることを知り、それをはぎ取って世界を見たとき、新たな発見があるんです。
ぜひ全文を読んで頂きたいのですが、観えないものを観て、さらにそれをアーティストとして翻訳して「他人に目撃」させている、というのはとてもすさまじい活動だなと。
そして、この記事に関して、尊敬する住職の方とやりとりをしていたら、「実は哲学、瞑想、能なども方法は違えど同様の営みなのではないか」とおっしゃっていてまさに、と思いました。
おそらく、それぞれの営みに共通しているのは、
・それぞれのアプローチに高度な技術が求められるということ
・そしてそれと同時に、心、体の在り方が否応なしに影響するということ
なのではないかと。
ファシリテーションも、(ひいてはリーダーシップも)まさにそうなんですよね。最初に書いた、心の在り様が無意識的な身体の反応にでてくるという話もそうですが、心技体はまさに一体だなぁと。
そして、ここで重要なことは、「心の在り方」と「技術」と「身体の在り方」の3つをバランスとっていこうとか、足りない部分を磨いていこうとかそういう話ではない、ということ。ファシリテーターとして様々な場で実践を重ねる中で、それらは互いに影響し合っているのであって、ばらばらに捉えようとしても意味をなさないのではないか、ということを常に感じます。
心技体について、調べてみると 語源と言われている古木源之助著『柔術独習書』には、
『以上三項の修行法は相互関連して居れるを以て単に一つの方のみを研究すべきものにあらず』(お互いに関連するものだから、一つだけを取り上げて研究するものではない)
出典:心技体の本当の意味とは?
とあるそうです。(ちなみにこの出典先、たまたま見つけた整体院のブログなのですが、僕が書きたかった感覚を的確に表現して下さっていました。お話してみたい・・・)
「心技体」で一つあって「心」+「技」+「体」ではないということ。
つまり「心の在り方」と「ファシリテーション技術」と「身体の在り方」とをばらばらに観てはいけない、ということ。
だからこそ、ファシリテーターの実践とマインドフルネスは密接に関わっているし、自分の在り方そのものを同時に技術として捉えることが求められるのだと思います。
参加者自らが問いを見出す場を紡ぐ、ということ
最後に。
前半の講義ではファシリテーションの考え方やスキル、準備をするためのフレームワークなど実践的な思考法や基本テクニックを、ビジネス文脈に合わせて実際の事例も交えながらお伝えするのですが、意志と信頼の話は、実は普段の講義や研修ではあまりしません。
(もちろん知ることと実践することには大きな差があるにせよ)手段としてのファシリテーションは教えることができますが、その在り方や意志については、実体験を伴わないまま話をしても自分ごと化するのが難しく、逆に参加者を混乱させてしまったり、ファシリテーションを実践するハードルを高めてしまったりすることになりかねないからです。
今回、最後の最後で、ファシリテーターの在り方(being)に踏み込めたのは、まさに参加者が「果たして自分はその時に、ファシリテーターとしてその場の参加者を信じれるのだろうか」という問いを自ら見出し、握りしめてくれたから。
ファシリテーションの起源は1960年代にアメリカではじまったエンカウンターグループというグループ学習を促す技法と言われていますが、改めて、ファシリテーションの根幹はグループによる体験学習にあるなぁと再認識しました。
追記:追加開催 → 12/7(月)19:30 〜 少人数講座ではありましたが、ファシリテーションを人に教える講師の方からこれから職場で実践していきたいという事業会社の方、コンサルタント、大学職員の方まで、年齢も職業も幅広い参加者にご参加頂きました。 別日程で開催をしてほしいと何名かの方に言って頂いたので、 もしご参加頂ける方が一定(10名くらい?)いらっしゃるようでしたら次もやりたいなと思います。まあもし集まったら、ということで。 (参加者の方から頂いたご感想やコメント) ・刺激的な講義と演習をありがとうございました。 ファシリテートの奥深さを垣間見ることができました。あまりにも深く、重いですね。 ・関係性の質が全体の質に影響するということを考え直すきっかけとなった。 ・ファシリテーションに興味はあったものの、いざ構えるとハードルが高い感じだったが、今回の講座に参加してみて、どんどん自分で試してみれる場がたくさんあることに気がついた ・体系的に学べた講義が演習でつながり、様々な気付きを得られました。演習の時間が少し足りなかったかなと思いました。 ・新たな視点での解説はとても勉強になりました。 ・演習の最後に、「信じる」ことの大切さを教えられたのは衝撃でした。昨夜振り返って感じたのは必要なのは「心技体」なのかなとも思いました。人との関係性の本質を抉っていくと、そういう言葉につながるのかもしれないですね。まさかファシリテーションが、「心の有り様」や「任せる」というところにつながるとは思いませんでしたが、抽象化していくと、その場にいる人との協働なわけで、チームワークとも似てるんでしょうね。奥深すぎる。 ・議論の内容、参加者の状況、全体の場を「観る」「理解する」のがいかに難しいのか理解できました。いくつかのルールを試していきたいです。 ・初めて合う方と一緒にワークができてとても楽しかった。参考になったことがたくさんありました。いつも一緒にいる仲間で研修をしてもらったらどんな感じになるでしょうか。 ・実践的なワークの中で技術的なことはもちろん、ファシリテーターとして場に関与する覚悟について考えさせられる時間でした。奥深い!偶然受け取った宿題が重いけど、日々の業務に役立てていきます。 ・ファシリテーションは問題解決や合意形成を促進する技術として最近注目を浴びてます。いろいろな立場、考え方、価値観の人々の意見を引き出し、合意形成に導くのは至難の技。ファシリテーターをさせていただく機会多い私にとってとてもいい経験をしました。ありがとうございます。 学びの場をともに創ってくれた参加者のみなさんに感謝です。
共創を生み出すビジネス・ファシリテーションを学ぶ体験講座 〜「説得し、動かす」リーダーシップから「引き出し、動き出す」リーダーシップへ〜今後の講座開催について