「イノベーションの転換期」事前対談【前編】 〜大企業がイノベーションのジレンマを乗り越えるには?〜

「イノベーションの転換期」事前対談【前編】 〜大企業がイノベーションのジレンマを乗り越えるには?〜

 

大企業が新しい価値を生み出し、
イノベーションのジレンマを乗り越えていくために必要なことは何か。

この問いをテーマにしたイベント「イノベーションの転換期 〜新時代の企業戦略と人の在り方〜」が1月16日に行われます。縁あって、このイベントの事前対談にお邪魔して、NRI イノベーション室長 山口さんとDesignit Tokyo 代表の櫻井さん、という型破りなイノベーターお二人の対談を取材(?)しましたので、ブログにまとめました。

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Designit Tokyo 代表 櫻井亮 
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野村総合研究所ビジネスイノベーション室長 山口高弘

イノベーション航海論 〜不確実性への大航海時代〜

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陸でのイノベーションの終焉

今の大企業には「港」をつくっていくことが必要だと思うんですよ。

櫻井さんのこんな切り出しから始まった今回の対談。

18世紀、19世紀以来、戦争の理論から端を発している経営理論や意思決定の考え方は、例えてみると、いかに更地を開拓して城を創り、城を管理し、拡大させていくか、という考え方です。やがて更地は枯渇し、城を守るだけの消耗戦が繰り返され、結果的に多くの企業が疲弊しています。問題は、レッドオーシャンと化した陸地でのイノベーションは終焉しているのに、依然として大企業はイノベーションを語る時、城の内側からの視点で語っているということです。

じゃあ、そのメタファでいくと、これからの大企業に求められているのは、これまでのルールや成功事例といった城を守るロジックから脱却し、城から出て、港をつくり、航海に出ていくってことです。大企業は「自分たちの城の内側からイノベーションをどう起こしていけるか」というパラダイムを根本的に変える必要があります。つまりルールやゴールや考え方、KPIが違う、不確実な領域へ、船をだしていくために港を創っていく必要があるということです。

 「城」「港」「航海」といったメタファをベースに、櫻井さんと山口さんのキャッチボールは加速していきます。「港」という比喩が想定させるのは、近海と外海の接点=インターセクションとしての機能。企業が、港を介して外部のプレーヤー・リソースと連携をしていくことは、まさにオープンイノベーションの概念と一致する、という話もありました。

 ではどうやって港をつくり、船をだしていくためにはどうすればいいか、という話に徐々にうつっていきます。船を出す人達をどうやって企業の中で許容し、育てていくか、という議論です。

 

近海のプライベートビーチで遊ぶ

とはいえ、城を持つ企業の立場から見ると、いきなり長期航海するのはリスクが高過ぎます。でも城主や城から出たい人たちにとっては、安全な海っていうのが必要かもしれない。近海でのプライベートビーチのようなものですね。そうやって近海で遊泳をしていく人が増えれば、そこから徐々に本格的な港の創り込みが出来るようになります。

あとは、航海するにあたって、外部との接点をもつことを極端に嫌う経営者も未だに多くいます。そういう意味では、企業の少し離れたところに中間的な形で長期航海用の大きな港を作り、複数の企業が相乗りで使えるような港湾を政府やいくつかの民間企業の有志が投資して作ることが必要なのかもしれません。

 

ところで陸における新規事業と、プライベートビーチの違いってなんなのでしょうか。既存の新規事業制度とプライベートビーチの違いは大きく二つあると思います。一つは、城のロジックじゃないものでKPIをつくること、もう一つはプロセスそのものが変わることを許容すること。だからまずは、船を出したい人が、近海で死なないけど溺れるような経験をたくさんしていくことが大切ですし、その経験を評価してあげるってことが大事ですね。経営者から見たらプライベートビーチで一生懸命ボートこいでいる様子は、バナナボートにしか見えないかもしれない。でも近海で溺れるような経験をたくさん許容していないと、そもそも長期航海にでていける人材は育たないと思うんです。

既存のルールやKPIで評価するのではなくて、そのロジックではまわらない環境に飛び込んでいく経験(失敗)を評価する、経験価値の考え方。これは、組織が新しいパラダイムへと転換していく上ではとても大切だと感じます。

たぶんバナナボートにのって近海を泳ぐことの意味は、城を離れて、違った視点を得ることなんですよね。自己内省も含めて。こういうことをしたい、こういう顧客をハッピーにしたいという想いやメッセージがないと、不確実性の高い荒波の立つ長期航海にはいけない。つまり、プライベートビーチの段階で大事なのは、自分のやりたいことをみつけて、長期航海にでる覚悟を得るということなのかもしれないですね。

そう。ここ、すっごく大事だなーと。 イノベーション創出の文脈ではHowとかWhatに議論が偏りがちだけれど、なぜ自分たちはそこを目指すのかというWhy、さらにはその人個人の在り方(Being)と社会の関係性をぬきには語れないことなのではないかと思います。そこと向き合わずに、長期航海にでても、社会のため、組織のためにと頑張りすぎて、いつの間にか自分のwhyから離れていってしまい、いつの間にか疲弊してしまう

僕が去年一番お世話になった起業家の方は、アントレプレナーシップとは自分の価値を突き詰めることだと言います。もちろん常にリスクと大胆に向き合っている起業家とは状況が違うかもしれませんが、個人と組織と社会が一筋につながっていることは、社内イノベーター、イントラプレナー人材が不確実性の荒波のたつ、イノベーションの海に船をだしていくためにも、とても大切だと思います。

(前編終わり)

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 後編は、
– イノベーションを支える組織の在り方、タグボート経営
– イントラプレナー(社内起業家)に求められる資質
– ユーザーとの対峙、セルフオブザベーション、マインドフルネス
などなどかなり興味深い内容。

後編はこちら→「イノベーションの転換期」事前対談【後編】

 

*今回の対談記事は、イベント主催のGOB-labのブログでも公開しています。

こうして事前対談で、内容を事前に公開しているのは、当日には内容を踏まえて参加社と一緒に対話の場をつくっていきたいから、とのことです。国内外のイノベーション最前線で活躍するプレイヤー達を迎えて、これからの社会を創っていくための思想や実践が交される、面白いイベントになると思いますので、興味がある方は、是非1月16日のイベント「イノベーションの転換期 〜新時代の企業戦略と人の在り方〜」に参加してみて下さい!